18金フレームの修理に関して
はじめに、18金フレームの修理に関しては可能か?不可能か?に関してお答えいたしますと、ほとんどの修理が可能です。
価格と納期は、ロー付け+磨きで価格が7,700円~11,000円、納期が11日~13日位です。
ただし、金枠はたとえ小さいネジ1本であっても、重量・金地金相場・職人の加工技術によって価格が高額になってしまいますので、新たに金素材が必要となる時は、別途お見積りが必要になってまいります。事前にその旨をご理解いただければと思います。
尚、価格幅に関しては、全国にある遠近両用プロショップの店舗から、福井のサンクス・メンテナンス・センターに修理品を送っている為、往復送料によって違いがございます。詳しくは店頭価格にてご確認ください。
はじめに、金素材に関して
金の元素記号は”Au”で、ラテン語で金を意味する”aurum”に由来します。化合物ではなく単体で産出されるため、装飾品として人類に利用された最古の金属です。
しかし、金は熱に弱くやわらかい金属であるため、純度100%(K24)では型崩れしたり傷がついたりしやすいという問題があります。そのため、他の金属と混ぜ合わせることで、K18(金の含有率75%)やK14(金の含有率58.5%)などの金合金としてメガネや装飾品に使用されています。
因みに、イエローゴールド(YG)やピンクゴールド(PG)、ホワイトゴールド(WG)という種類がありますが、金と混ぜ合わせる金属の種類や割合を変えることで作られた色味の違うゴールドです。
YG … K18イエローゴールド
PG … K18ピンクゴールド
WG … K14ホワイトゴールド
尚、K18の”K”とは、カラット(karat)という金製品に金が含まれる純度を24分率で示す単位の頭文字です。
また、K18GP、K18GFという表記について補足しておきます。
GPとは“Gold Plated”のことで金メッキを表しています。金メッキの膜は非常に薄いため、ちょっとした衝撃で剥がれやすく傷つきやすいので取り扱いには注意が必要です。
GFとは“Gold Filled”のことで金張りを表しています。金張りは、被覆材(金張りの膜)と母材(洋白など)を熱と圧力を用いて貼り合わせる方法で作ります。GPと違い金の部分が厚いので金メッキに比べ、長期間使用しても剥がれにくくなっております。
18金フレームの修理 Step1 … 検査
金素材のフレームにはK18・K14・K12といった刻印がテンプルなどに刻まれていることが多く判別しやすいのですが、刻印が消えてしまっている場合は修理箇所の断面を確認し、材質の検査・判断をおこないます。合金・チタン等の場合、切断面がシルバー色になっていますが、金素材フレームの場合は切断面が金色になっています。真鍮素材の断面はイエローゴールド(YG)色になっていますので間違えないよう注意が必要です。また、金素材は比重が重たいという特徴がありますので、フレームを持った際に洋白(合金)やチタン素材とは違った重量感があります。こうした特徴を理解し材質の判断を行っております。
18金フレームの修理 Step2 … 溶接
お預かりした修理品の材質判断が完了しましたら溶接工程に移ります。ですが、いきなり溶接をおこなうのではなく溶接前の下処理から始めます。
メガネフレームの破損は、破損個所に負荷がかかり破損するケースが大半で、破損個所が型崩れをおこしていることがよくあります。
そのため、そのまま溶接をすると型がおかしくなり全体のバランスに影響を及ぼすため、溶接前に破損個所の型直しをおこないます。
また、破損個所の断面はちぎれたような状態になっていることが多く、断面を合わせてもピッタリと合わず、少し隙間ができてしまいます。
溶接は接地面が多いほど強度が増しますので、断面の表面を整えることも非常に重要となります。
以上の下処理を終えた断面同士を合わせた状態で熱を加え溶接をおこないます。
サンクス・メンテナンス・センターでは、金素材フレームの溶接にレーザー溶接を採用しております。レーザー溶接はピンポイントに瞬間的な熱を加えることができる溶接方法の為、修理箇所以外の場所に負担をかけることなく溶接することができます。
その為、宝石などの装飾が施されたフレームでも溶接が可能になります。
尚、破損した際にパーツを紛失してしまった場合でも修理は可能です。サンクス・メンテナンス・センターにてK18のネジやパッド、クリングスなどの新規パーツをご準備することが可能です。ただし、別途パーツ代金が必要になりますのでご了承ください。
18金フレームの修理 Step3… 補強
金素材フレームの溶接修理に採用しておりますレーザー溶接は、接合箇所の母材同士にレーザー光線を当て、ピンポイントに溶接する加工法となっております。
レーザー光線の当たったポイントは瞬間的に溶融し凝固する為、溶接箇所には凹みが生じます。
そのままでは強度を確保できず溶接個所にちからが加わった際に再び破損が起こります。
そうならないよう、サンクス・メンテナンス・センターでは同素材の補強材を合わせて溶接することで品質を損なわず強度を確保しております。
また、ナイロールフレームはフレーム内側に糸を通すための溝があるため、外側に補強材を溶接しても強度を確保することができません。
そのため、フレーム内側の溝を部分的に補強材で埋めて強度を確保します。溝が埋まりますので、その部分に糸を通すことができなくなりますが、埋まる範囲を必要最小限とすることでレンズを入れた際に外れることのないようにしております。
因みに、以前に修理した箇所と同じ所が破損してしまう場合がございます。これはメガネの掛け外しを片手で行うなどの癖に寄る場合もあります。
同じことが起きないようにするには、以前よりも修理箇所の強度を出す必要がありますので、こういった場合は同素材の添え木を付けて溶接することをお奨めします。
18金フレームの修理 Step4 … 焼準(しょうじゅん)
焼準とは、溶接熱影響によって生じた歪みや残留応力(外部からの力が組織内部に残ること)により不均一となった素材の組織を均一化する手法で「焼ならし」とも言われています。
サンクス・メンテナンス・センターでは、レーザー溶接にて使用する補強材とフレームの組織を均一化させるため、バーナー機器を用いて修理部分に熱を加え、焼準をおこなっております。
焼準をおこなうことでより安定した強度を出せるほか、補強材がフレームになじむため修理箇所の仕上がり向上にも繋がっております。 フレームに溶接した補強材のみを融点(固体が液体になり始める温度)に近い温度まで加熱する必要があるため、職人の高い技術が必要な工程となっております。
修理箇所周辺に飾りや七宝がついている場合は、バーナー機器による加熱により熱が飾りや七宝に伝わり変色、破損を起こす可能性があるため、修理箇所周辺に飾りや七宝があるフレームに関しては焼準をおこなえません。
その場合、レーザー溶接時にレーザー光線の照射範囲を広げ、補強材とフレームをなじませることで強度の確保をします。
因みに金の融点は、それぞれ下記のようになります。
・24金(純金) 1,064℃
・18金 800~868℃
・14金 680~787℃
・12金 650~750℃
・10金 620~722℃
(金以外の成分比率によって融点が変化します)
18金フレームの修理 Step5 … 研磨
修理箇所へレーザー溶接や焼準(焼きならし)をおこなうことにより、修理箇所周辺には熱による焼け跡がつきます。そうした焼け跡を取り除くため、バフ研磨をおこないます。
バフ研磨とは、布素材でできた円形状の研磨輪(バフホイール)に研磨材を付けて、機械で回転させることにより対象物を磨く表面処理方法で、ツヤ出しや小傷の除去等にも使用しております。
合金やチタンのフレームの場合、フレーム表面にメッキや塗装などの加工が施されているので、バフ研磨をおこなうと色が剥がれてしまいますが、金素材フレームは着色加工がされていないため、バフ研磨をおこなうことにより金本来の光沢を復元させることができます。
ただし、金素材は材質が他の金属に比べて柔らかいため研磨輪に当てる際のちから加減が難しく、当てるちからが弱いと光沢を出すことが出来ず、強いと素材が削れて凸凹になってしまいます。
職人は長年の経験から研磨をおこなうフレームの材質によって光沢のある滑らかな仕上がりになるよう、ちから加減を調整して研磨をおこなっております。
また、サンクス・メンテナンス・センターでは、金素材修理品にかぎり修理箇所だけでなくフレーム全体へバフ研磨をおこない、金素材フレーム本来の光沢へ復元いたしております。
バフ研磨のみのご依頼もお受けしておりますので、お気軽にご依頼ください。 逆に、修理箇所以外の光沢感を現状のままにすることも可能です。
18金フレームの修理 Step6 … 洗浄
バフ研磨に使用する研磨材には鉱物油等の油分が含まれており、バフ研磨後はフレームに多くの油分が付着した状態となっております。
金は耐蝕性に非常に優れた金属ではありますが、18Kや14Kに含まれる金以外の金属(銅など)が油分に反応し変色をしてしまう可能性があります。
そのためバフ研磨を終えた後は超音波洗浄機を使用してフレームに付着した油分や汚れを取り除く必要があります。
超音波洗浄機にはあらかじめ油分の分解を促してくれる洗浄液を入れており、短時間の使用で油分と汚れを落とすことができます。 ただし、フレームにべっ甲素材の飾りや先セルがついている場合や石飾りが付いている場合は超音波洗浄機を使用せず、メガネ拭きなどのクロスに薄めた中性洗剤を含ませて拭き上げていきます。
べっ甲や石飾りが付いていると超音波洗浄をしない理由は、べっ甲の原料となるタイマイ(亀)の甲羅は一枚一枚の厚みが薄く、貼り合わせて成形されているからです。
べっ甲を超音波洗浄器で洗浄すると、超音波の振動により貼り合わせが剥がれバラバラになってしまいます。
石飾りも超音波の振動によりフレームから外れる可能性がある為、拭き上げにて油分や汚れを落としております。
金素材フレームのお手入れ方法
修理工程のご説明を一休みして、金素材フレームのお手入れ方法を記しておきます。
金素材の変色や黒ずみの大きな原因のひとつは、皮脂や整髪剤に含まれる油分にあります。
一日の終わりにメガネ拭きなどの柔らかいクロスで軽く拭くだけでも、変色や黒ずみの発生を抑えることができます。
拭き取っても落ちない黒ずみが発生してしまった場合は、薄めた中性洗剤を溶かしたぬるま湯に5分ほど様子を見ながら漬け置きし、柔らかい布で拭き上げて水分を吸い取ってください。
お湯の温度が高すぎるとレンズにクラック(ひび割れ)などの悪影響が出る為、必ずぬるま湯を使用してください。
宝石・天然石は水で変質したり、洗剤が付着してくすんでしまう可能性がありますので、できるだけ水に触れぬよう注意をしてください。
18金フレームの修理 Step7 … 金無垢上質仕上げ
溶接時に同素材の補強材を使用しておりますが、ピンクゴールド(PG)やホワイトゴールド(WG)などの場合、フレームの色と補強材の色が異なる為、修理箇所が目立ってしまいます。
サンクス・メンテナンス・センターでは、このような修理箇所の目立ちを最小限に抑える為の研究、技術開発を行った結果、ジュエリーの加工で用いられるメッキ処理技術を応用し、溶接後の補強材をフレームの色と同じ色にする技術の開発に成功しました。そして、その技術を使用した修理サービス「金無垢上質仕上げ」を2018年度よりスタートしています。
通常のメッキと違い、補強材のみにフレームと同色のメッキ処理をおこないますので、フレーム全体の質感は現状のまま仕上げることが可能となっております。この修理サービスをご利用いただいたお店様からはお喜びの声を多数いただいており、大変お奨めの修理項目となっております。
納期がプラス2~3日ほど掛かってしまいますが、金素材フレームの修理をご依頼の際はぜひ「金無垢上質仕上げ」をご用命ください。
18金フレームの修理 Step8 … 組付け検品
修理工程を終えたフレームは、溶接により傾斜角度やテンプルの開き具合に影響が出ていないか、溶接箇所の強度は確保できているか等の確認をおこないながら組付けをいたします。
金素材フレームに使用されているネジは大抵がフレームと同素材(K18、K14)のものとなっておりますので、元のネジを使用して組付けをおこないます。
金素材のネジは柔らかくネジ頭が潰れやすい為、数種類のドライバーを用意し、ネジ頭にあったドライバーを使用しております。
組付け完了後、仕上がり検品を専門におこなっているスタッフの下でフレーム全体を綺麗に拭き上げます。
その際に、お預り時に撮影した写真データと照らし合わせ、ネジや鼻パッド等のパーツがお預り時と同じもので組付けられているか、修理箇所が問題なく仕上がっているか等の最終確認をおこない、合格した修理品をフレーム袋に入れて発送の準備に取り掛かります。
金素材独特の追加料金に関してご説明します。
金素材は柔らかい為、型が変形することはよくあります。特に破損時に発生しやすくなります。組付け時に調子取りをおこなっておりますが、変形が大きい場合は型直し料金を別途でいただくことがあります。また、その際は事前にご連絡させていただきますのでご了承ください。
最後に“K18”と“18K”の違いについてご説明します。
日本では、国産か海外産かを一見して判断できるよう、“K18”と“18K”の表記に分けられています。国産のものには、“K18”、海外産(主にアジア圏)のものには“18K”と表記されています。
“K18”は国内の基準を満たし、必ず定められた数字の水準に達した金が配合されています。
しかし、“18K”の中には金の配分が75%に満たないものでも“18K”と表記されたものも存在します。
また、欧米産のものには1,000分率で表記されている場合もございます。
【例】 K24=1,000 K18=750 K14=585
遠近両用プロショップからのお願い
一品一品、心を込めて修理させて頂いておりますが、修理はあくまでも修理であり、新品に戻るわけではございません。また、個別対応の為、どうしても時間が掛かってしまいます。時と場合によってはパーツをお取り寄せして交換したり、買い直して頂くことをお奨めする場合もございますので、予め、ご了承くださいませ。