遠近両用メガネ・レンズを作れば、若い時と同じように見えるんでしょ?
残念ながら答えは「NO!」です。
大変申し訳ございませんが、そこまで遠近両用メガネにご期待頂いたとしても、所詮、メガネは道具でしかありませんので、老化現象の一つである老眼を回復させることは出来ません。
道具には道具本来の「目的」や「使い方」というものがありますので、それを間違ってしまうと期待していた結果が得られないと感じ、お金を支払ったことを後悔してしまうという状況が考えられます。
では、遠近両用メガネで出来ることとは何でしょうか?
それは、年齢と共に弱くなった近くにピントを合わせる力をレンズで補ってあげることで、近くにピントを合わせることが出来るようにしてあげる事です。これがいわゆる老眼鏡であり、遠近両用メガネの目的です。
最初にこの点をご理解いただくところから始めるべきだと思いますので、少々強い文面となりますが、あえて記載させて頂きます。何卒、ご了承くださいませ。
では、次に事例毎に紹介していきましょう。
遠近両用メガネ・レンズで後悔 … ① 知識不足、理解不足
後悔の中で一番多いのが事前の情報不足からくる「考えていたものとは違う」だと思います。
単純に遠近両用メガネを作れば、遠くがスッキリ見えて、近くも若い頃と同じように見えると考えてしまうパターンですね。
確かに「遠く」も「近く」も見えるのですが『遠近両用レンズの仕組み』を理解していないと思っていたように使えないのです。
では、遠近両用レンズの構造を知る事から始めたいと思いますので、先ずは下記イラストの左上の単焦点をご覧ください。
これは近視や遠視等に使われるレンズで、単焦点という言葉から分かる通り一つの場所にだけピントを合わせられるレンズです。一つの場所にしか焦点が合わせられないという事は遠くか近くかどちらか一か所になってしまうので、近視で遠くが見えないのに老眼になってしまった方には使いづらいものとなってしまいます。
そこで近視の方が遠くと近くの両方を見る為には、焦点が2つ必要ですから中央上の二重焦点が必要となる訳で、それが昔、よく見かけた二重焦点の遠近両用レンズとなるのです。
ただし、遠くと近くだけで中間は見えませんので、もし中間距離も見たいというなら右上の三重焦点が必要となる訳です。
人によって見たい距離は様々ですし、パソコンの普及を中心に生活様式が大きく変化したことから、もっと色々な場所に焦点を合わせられるようにする必要が出てきました。そこでもっと細かくした上に、さらにレンズの境目を見えないようにして見栄えを良くしたものが右下の累進多焦点の遠近両用メガネとなるのです。こうやって見るとその構造が分かりやすいと思います。
次に累進多焦点の遠近両用メガネを使って見える距離に関してですが、下記イラストの左側に記載されているように遠くは屋外の山々、中間距離は室内のテレビや壁の時計、机上ならパソコンや約30cmのお手元まで、いろいろな場所にピントが合うようになっています。これが「遠くから近くまで1本のメガネで見る事が出来る」と言われる所以です。
そしてここが重要になるのですが、イラスト中央を見てください。距離別に見える場所とボケる場所を理解していないと上手く使いこなすことが出来なくなってしまいます。
遠くを見る場所はレンズの中心より上の青い色を付けた場所になり、中間は青色の下の黄色い場所、近くはレンズ下部の赤い場所となりますので、見たい距離に合わせて目線の角度を変える必要が出てきます。
そうなのです。正面は近くが見えないのです。ここを勘違いしている方が多いのです。
レンズの構造を思い出して頂くと分かりやすいのですが、徐々に度数を変化させている都合上、遠くの下は中間距離を見る場所になっているのです。中間距離にピントが合う場所で近くを見ようとすると、老眼を補う度数が不足していて見えなかったり、見えたとしても目が凄く疲れてしまうのですね。
では、遠近両用を使ってそれぞれの距離を見るにはどうしたら良いかと言う話になりますが、イラスト右側の目線の角度を見てください。メガネを掛けた状態で横から見たイメージ図になっています。
遠くを見る時は、レンズの遠くが見える場所に目線が通るようにしないと見えないわけですから、少し上目使いの様な目線の角度になるのです。中間距離は少し下目線、近くはかなり下げた目線となります。
「これじゃ使いづらいだろ」というご意見もあるかもしれませんので、顔の角度を変える方法もご紹介しておきましょう。
遠くを見る時はアゴを少し引くようにして頂けると遠くが見やすくなります。逆に近くを見る場合はアゴを少し出すような姿勢を取って頂くと近くが見やすくなります。
もしくは、見たい物を目線の延長上に持ってくるという手法もあります。具体的にはスマートフォンなどは体に近づけると見やすくなります。
ただし、ここで注意してほしいことがあります。それはデスクトップ型のパソコンでお仕事をされている場合です。
画面までの距離って40~50cmですよね。しかも、顔と同じくらいの高さにありませんか?
そうなのです。姿勢を優先して考えると、遠近両用の遠くを見る場所や中間距離を見る場所くらいの位置を目線が通りますよね。
近くにピントを合わせるために補ってあげる度数が入っていない場所で見ているので疲れの原因になってしまう場合があるのです。
この場合は、同じ累進多焦点でも遠近両用ではなく中近両用や近々両用と言ったレンズの方が見やすく使いやすい場合がありますので、メガネを作る際は遠近両用だけでなく、中近両用や近々両用もテストレンズを使って試してみることをお奨めします。
遠近両用メガネ・レンズで後悔 … ② ボケる場所があるのを知らなかった
遠近両用の仕組み②のイラストでご紹介した通り、遠近両用レンズには鼻側の下半分と耳側の下半分にボケる場所が存在し、さらに周辺部に行けば行くほどボケが強くなるという特徴もあります。
この「ボケる」という表現ですが、正確には歪む(ゆがむ)と言った方が当てはまるかもしれません。また、見ている距離によっては揺れる(ゆれる)という表現もあります。
このことを予めご理解頂いておく必要があるのですが、万が一、このことを知らないと「ユレ・ユガミで酔ってしまうので使いづらい」「ユレ・ユガミに慣れられなくて使わなくなってしまった」といった後悔に繋がる場合もあります。
では、どうしたら良いのかと言うと、『見たいものに顔を向けて正面で見るようにする』というのが遠近両用の使い方の基本となります。
また、近視で単焦点レンズを使っていた方からすると「視野が狭い」という感想も聞かれますが、これも遠近両用の構造を考えて頂くと、どうしようもないこととしてご理解頂くしかありません。
「どうにかならないの?」というご意見もあるかもしれませんので、レンズのグレードを上げる方法をご紹介します。
レンズのグレードを上げると販売価格も上がってしまいますが、より高度な設計が入り込むことでユレ・ユガミ・ボケを感じる部分を削減し、綺麗に見える幅を大きく広げることが可能です。
また、上位レンズを選択することで慣れるのも早くなりますし、使い勝手も良くなりますので、度数が強い方や乱視が強い方にもお奨めです。
遠近両用メガネ・レンズで後悔 … ③ 階段を降りるのが怖い
これも遠近両用レンズの特徴なのですが、「下り階段」以外にも「下りのエスカレーター」や「バスを降りる時」なども怖いと言われます。中にはこれが原因で使わなくなってしまう方もいらっしゃいますので、事前に知っておいた方が良いでしょう。
では、何故、怖いのかですが、目線の角度も問題ですね。階段を降りる時は近くを見る部分を目線が通るのでボケてしまうのです。
この対処方法は、慣れるまで必ず「アゴを思いっきり引いて、出来るだけ遠くを見る場所を目線が通るように意識して頂くこと」と、安全の為に「手すりにつかまって降りるようにして頂く」ことをお奨めしています。
また、この使い方を体が覚えるまでは、慣れた環境で練習して頂くことも必須です。
尚、遠近両用プロショップでは、通常、遠近両用メガネが初めての方には、テストレンズを使って事前に体験して頂くようにしていますのでご安心ください。
遠近両用メガネ・レンズで後悔 … ④ 老眼が強くなってから購入した
老眼を認めたくないというお気持ちは凄く理解できるのですが、老眼が進行して強い度数が必要になってから遠近両用メガネを作ると、弱い段階で作った方よりも慣れるのに時間が掛かってしまい、場合によっては使う事を諦めてしまう方もいらっしゃいます。
その理由を下記の写真を使ってご説明しますが、先程、レンズのグレードをご説明した時は、同度数を条件に横軸にグレードを表記しましたが、今回は度数が異なる事から縦軸にグレードを表記し、横軸に老眼の強さを表記していますのでご了承ください。
老眼の度数が同じであれば、遠近両用レンズのグレードを上げることで視野が広がる(縦軸方向)という事はご理解頂けたと思うのですが、逆に、レンズのグレードが同じで、老眼の度数が強くなると視野は狭くなる(横軸方向)ということが写真からお分かりいただけると思います。
言い換えると、老眼が強くなってから遠近両用メガネを作ると、視野が狭くなり、ボケる部分も大きくなり、体の真正面に持ってこないと見たい物が見えないという事になるのです。
これを解消するにはレンズのグレードを上げることになるのですが、初めて作る自分が使いこなせるか分からない物に大枚をはたくのはかなりの勇気がいるでしょう。
ですので、よくあるお試しセット等のお求めやすい価格の品を購入してしまい、視野の狭さから使いにくいものになってしまい後悔するか、もしくはグレードの高いレンズにしなかったことを後悔する事になってしまうのです。
ですので、老眼を自覚し、お仕事や生活の中で不便に感じることが出てきたら、出来るだけ早く遠近両用メガネを作ることをお奨めします。
遠近両用メガネ・レンズで後悔 … その他
後悔の内容は人それぞれという事で、他にお聞きしたことがあるものについても記載しておきますので、参考にして頂ければ幸いです。
●仕事や生活の中で不便に感じることをきちんと説明できなくて後悔
ご自身のお困りごとを客観的に説明するのはとても難しいのですが、困っている内容によって作るものが違ってきてしまうので、出来るだけ詳しくご説明頂けると、より使いやすいものが作れると思われます。
特にお仕事で使う場合は時間も長くなりますし重要性も高まりますので、「仕事の時に文字が見づらくて困っている」ではなく、「デスクトップ型のパソコンを使っていて、画面までの距離は何cmで、高さがこれくらい。一日に何時間以上使っている。文章は問題ないのだが、数字が見づらいので困っている」等の詳しい情報を伝えて頂けると、遠近両用プロショップとしても具体的なご提案が可能になります。
●フレームの天地(上下)幅が狭すぎて後悔
遠近両用レンズは上下方向に徐々に度数が変化するレンズですので、天地幅が狭いと十分な変化が出来なくて見づらくなってしまったり、近くを見る部分が狭くなってしまう場合があります。
よって、天地が狭く横長なスクエアタイプのフレームより、全体的に丸みを帯びたボストンや、四角くて上下幅もあるウエリントンタイプのフレームの方がお奨めです。
尚、どうしても天地幅が狭めのフレームが良いという事であれば、累進帯長(度数が変化する部分の長さ)を短めにすることも可能ですが、メリットとデメリットをご理解頂いた上で選択することをお奨めします。
累進帯長が短いレンズのメリット
・天地幅が狭いフレームでも使えること
・目線を下げる角度が小さく出来るので、上下の目線移動が楽なこと
累進帯長が短いレンズのデメリット
・急に度数が変化すること
・周辺部のボケが強くなってしまうこと
●プラスチックフレームで遠近両用メガネを作ってしまって後悔
メタルフレームは鼻パッドが付いていますので細かい調整が可能なものが多いのですが、プラスチックフレームは鼻盛りと言って、鼻あての部分が盛り上がっているだけのものが多く、細かい調整が出来ません。
結果、夏になると汗をかくのでズルズルとメガネが下がってしまい、見づらくなってしまう事があります。 また、プラスチックフレームは枠自体が太いので、人によっては目線に干渉してしまい使いづらいという方もいらっしゃいますので注意が必要です。
●フレームが似合わないと言われて後悔
「派手過ぎた・地味過ぎた」、もしくは「大きすぎた・小さすぎた」など、後から周りの人に言われて後悔するパターンですね。似合う似合わないは人それぞれの感じ方なので、正直言って難しいところです。
一番良いのは、ズバズバ言ってくれるご家族やご友人と一緒にご来店いただき、楽しみながらメガネを選んでいただくと良いと思います。
●遠近両用ではなく老眼鏡にすればよかったのかもと後悔
遠近両用レンズと老眼鏡の違いは「見える場所の数」、「掛け外しの必要性」、「価格」等であり、どちらが良いかは使う方の眼の状態やご希望によって異なります。
例えば、近視で遠くが見えない方が老眼になった時は、遠くも近くも見えることが必要になりますので遠近両用レンズが向いていると思われますが、普段、メガネを必要としていなかった方が老眼になった場合は、近くを見る時だけ老眼鏡を掛ければ事足りてしまいます。
ただし、近くを見る度に老眼鏡を掛けたり外したりする必要がありますので、その仕草が周りから「老けて見える」と言われてしまう事から、女性を中心に掛けっぱなしでいられる遠近両用をご購入される方が増えているのも興味深い点です。
また、近視用のメガネを小さめに作っておいて、枠の上下のメガネが無い部分で文字を読むなどの工夫をされている方もいらっしゃるようですが、目線の角度的に無理があるのでお仕事などでの長時間の利用は厳しいでしょう。
価格に関しては、それこそ100円均一でも老眼鏡が販売されていますので、桁違いに安く済ませることが出来ますが、個人に合わせて作ったものではないので長時間の利用はお奨めできません。
このように選択肢は数多く色々ありますので、事前にある程度の情報収集を行い、メガネの専門家である遠近両用プロショップの店員さんに相談してみることをお奨めします。
メガネやメガネレンズにお困りの方はお近くの「遠近両用プロショップ」へ。こちらの「ご相談・お問い合わせフォーム」からお気軽にご相談ください。